密度汎関数法入門(2)-計算方法
はじめに
この記事は、密度汎関数法についてのシリーズ記事で、
の続きになります。
この記事では、前回導出したKohn-Sham equationを数値的にどう解くかということを説明します。
続きは
密度汎関数法入門(3)-計算例(実装) - Airy's blog
密度汎関数法入門(4)-計算例(結果) - Airy's blog
です。
Self-Consistent Field equation
Kohn-Sham equation
において、ポテンシャルの項のうち、Coulomb相互作用の項
と、exchange correlation potential は基底状態の電子密度によって決まる項であり、外場ポテンシャルとは違って最初から形が決まっているものではありません。
したがって、Kohn-Sham equationを解いた時に、が、から求めた電子密度を使って求めた実効ポテンシャル下における一粒子方程式の解になっている必要があります。このような方程式を、self-consistent field equation(SCF equation)とよびます。
SCF equationであるKohn-Sham equationを数値的に解くには、まず、初期配位を仮定し、それを用いて電子密度を計算し、そこからCoulomb相互作用ポテンシャルとを計算し、得られたポテンシャル下での一粒子方程式を解きます。この段階では、Coulomb相互作用ポテンシャルとは最初に仮定した配位を用いて計算したものであり、一粒子方程式を解いて得られた解とはconsistentではないと考えられます。そこで、現在の配位から電子密度を計算、電子密度から実効ポテンシャルを計算、得られた実効ポテンシャルを用いて一粒子方程式を解く、というプロセスを状態が収束するまで繰り返すことで、self-consistentな解を得ることができます。*1
Exchange Correlation Functional
次に、exchange correlation potential について考えてみましょう。Kohn-Sham equationを解くには、電子密度[\tilde{n}]からを計算できる必要があり、そのためにはの形がわかっている必要があります。しかし、は[\tilde{n}]の関数形によって決まる汎関数であり、[\tilde{n}]の簡単な微分や積分によって書ける保証はないので、それを決定するのは非常に困難です。また、の定義は
であり、全体から主要な項を引いた残りといった風になっているので、解析的な計算によってを決めることは難しいでしょう。
実際には、DFTは数値計算のための理論ですので、数値計算がしやすいようなの近似式が用いられます。代表的なの近似としては、以下のようなものがあります。それぞれの詳細や、具体的な関数形については
- 常田貴夫著 「密度汎関数法の基礎」
- Naito, T., Akashi, R., & Liang, H. (2018). Application of a Coulomb energy density functional for atomic nuclei: Case studies of local density approximation and generalized gradient approximation. Physical Review C, 97(4), 044319.
などを参照してください。一つ目の文献では、様々な種類の汎関数が物理的正当性や再現性などの観点から詳しい説明がついて紹介されています。二つ目の文献では、汎関数の具体形がパラメータ込みで簡潔にまとめられているので、自分でDFTを実装してみたいときなどにおすすめです。
LDA(Local Density Approximation)
が考えている点の電子密度だけで決まるとする近似をLocal Density Approximation(LDA)とよびます。この時、exchange correlation functionalは
という形に書くことができます。
GGA(General Gradient Approximation)
LDAに、による補正を取り入れた近似をGGAとよびます。
*1:このプロセスはいつも収束するとは限りません。これを収束させるには、良い初期状態を用いて計算することや、場合によってはこの他に状態を収束させるような工夫をする必要があります。