密度汎関数法入門(4)-計算例(結果)
はじめに
この記事は、密度汎関数法に関するシリーズ記事の最終記事で、
密度汎関数法入門(2)-計算方法 - Airy's blog
密度汎関数法入門(3)-計算例(実装) - Airy's blog
の続きになります。
この記事では、(3)-計算例(実装)で紹介した、原子の電子状態を計算するプログラムの計算結果と、その物理的解釈について紹介します。
このプログラムは原子の球対称性により実装が手軽になっているので、手元で動かせる簡単なDFTのプログラムを自分で実装してみたいという方は是非参考にしてみてください。
水素原子
この記事を読んでいる方はもうご存知の方も多いでしょうが、まずは水素原子のエネルギー準位に関する結果を紹介します。水素原子は、電子が一つしかないので電子間相互作用を考える必要がなく、シュレディンガー方程式は厳密に解けます(詳しくは量子力学の教科書を参照してください)。
それによると、動径方向波動関数は以下のグラフのようになり、主量子数nが等しいエネルギー準位は縮退することが知られています。
軌道 | エネルギー |
1s | -0.500 |
2s | -0.125 |
2p | -0.125 |
3s | -0.056 |
3p | -0.056 |
H原子の電子軌道のエネルギー(厳密解)
炭素原子
次に、DFTを用いて炭素原子の電子軌道を計算した結果を以下に示しました。
下のグラフを見ると、軌道ごとの動径方向波動関数は節の数や形が水素原子のものと類似していることがわかります。
各軌道のエネルギーを見ると、2s軌道と2p軌道、3s軌道と3p軌道の縮退が解けており、それぞれ、2s軌道の方が2p軌道よりも、3s軌道の方が3p軌道よりも低いエネルギーを持つことがわかります。これは、動径方向の波動関数を見ると、2p軌道よりも2s軌道の方が、また、3p軌道よりも3s軌道の方が内側に局在しており、内側の軌道に入っている電子からの反発力を受けやすくなるためだと解釈できます。
この議論により、電子が主量子数nが同じ軌道に入る時に、s、p、dの順番で入るという事実は、水素原子のモデルでは説明ができませんでしたが、電子間相互作用を考えることで説明ができるということがわかりました。
軌道 | エネルギー |
1s | -9.944 |
2s | -0.501 |
2p | -0.199 |
3s | -0.006 |
3p |
0.004 |
C原子の電子軌道のエネルギー